【第8回】 2020年は「次の『波』を作り始める年」です。
明けましておめでとうございます。校長の江川です。
まずは高等部3年生のみなさんに向け、メッセージをお送りします。センター試験、一般入試が目前に控えています。最後のひと踏ん張り、決して気を緩めず、万全の状態で試験日を迎えてください。
この一年、あるいは長い学園生活を通じて、みなさんは勉強に行事に常に真剣に取り組んできたことと思います。時には思うような結果がでず、不安になったこともあったでしょう。さまざまに悔しい思いをして、勉強自体が嫌いになったこともあったでしょう。
大変なことがあっても、つらいことがあっても、みなさんは逃げ出すことなく、今日の日を迎えました。そのことに、まずは胸を張ってください。みなさんが日々、積み重ねてきた努力は決して嘘をつきません。自信をもって試験日当日を迎えてください。
そして、いよいよ試験がはじまるというその直前、これまで支えてくれたご両親、先生、友達の顔をちらりと思い浮かべてください。きっと気分も落ち着いて、平常心で試験に臨むことができるでしょう。
この一年、みなさんの頑張りを目にしてきた私は何も心配していません。今日まで頑張れた自分を誇りに思い、そして新天地での頑張りに活かしてほしいと思います。
また、いわゆる秋入試で結果が出ているみなさんには、この3学期新たな目標を持って、臨んで欲しいと思います。4月からより良いスタートが切れるように、もう一段アップさせて置くことが必要だと思います。具体的には、すでに与えられている課題をただ取り組むだけでなく、なぜ、与えられているのか、を考えながら取り組むとか、また、英語検定試験の1月受験でもう一段上を目指してみるとか、だと思います。立ち止まらずに、進むことにしましょう。
中等部生、高等部1年、2年生の皆さんにとっては、短い3学期が終わればすぐに新年度がやってきます。2020年4月、新たな学年を迎えた皆さんを待っているのはおそらく更にバージョンアップされた「未来志向型教育」です。
ここからは、いつもより、長いメッセージになること、お許し下さい。
さて、2020年はどんな年でしょうか?干支(えと)は「庚子(かのえ・ね)」、「次の波を作り始める年」と言われています。特に、2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催される記念の年です。ここでは東京オリンピック・パラリンピック競技についてではなく、干支に注目してみましょう。
「今年の干支は子年」という言い方をしますが、本来、干支は「十干(じっかん)」と「十二支(じゅうにし)」を組み合わせたものを指します。今年の十干は「庚(かのえ)」、十二支は「子(ね)」ですので、これら2つを組み合わせると、2020年の干支は「庚子」となります。
さて、「庚子」の年はどんな年になるのか。それがここでのテーマです。つまり、2020年がどんな年になるのか、干支をもとに考えたいと思います。
まずはこの「庚」と「子」の組み合わせの意味を考えます。
「庚」の「か」は「金」を意味します。次に「子」はどうでしょう。「水」を表します。2020年の干支は、「金」と「水」の組み合わせになるということです。「金から水が作られる」イメージです。この組み合わせを「相生(そうせい)」と言い、相生は相手を強める影響をもたらすことで、「相性」の語源とも言われています。「陰陽五行説」(古代中国で成立した自然哲学の基礎概念)においては「庚子」は「よい組み合わせ」と言えるのだそうです。
実は、ここ最近は相生の年というのがなかったようです。2020年より以前は、2014年の「甲午(きのえ・うま)」が相生だったので、それ以来で6年ぶりです。6年ぶりに干支の相生が良い年が来たのです。これは何か期待できそうです。前向きな気持ちで、2020年を迎えたと言っても過言ではないと思います。
「2020年はいい年です」と言われて、「よかった」と思わずに、「何がいいの?」「どうすればいい年になるの?」と考えてみることが大切だと思います。せっかく相生のいい年と言えそうなので、もう一歩踏み込んで考えてみると、「庚子」は「始まり」と「終わり」を意味するということになりそうなのです。
「子」は十二支の中では最初です。肝心なのは最初です。十二支の順番は植物に例えられます。「子」はまだ種。その中で芽が出始めようとしている時期なのです。生まれるような感じです。
それでは、2020年の十干「庚」はどうでしょう。これも植物の成長過程を表します。2020年の庚は「成長が終わった状態」です。去年まで植物は成長を続けてきました。どんなものでも終わりはやってきます。ずっと成長を続けるわけにはいかないのです。
「庚」はもうこれ以上は生長しない時期で、今後は枯れていくというタイミングです。庚は「金」という話をしましたが、季節で言えば金は秋を意味します。これから冬になっていくというわけです。寒いです。冷えますね。
さっきまでは明るい2020年のイメージだったのに…。「庚」は「成長の終わり」と聞くと不安になってしまいます。
しかし、これは循環ですから、そういう年を省くことはできません。将来の成長のために必要な時期です。そして、どんな年かがわかれば、それに合った行動もできますから。ただただ不安になるのではなく、理解しておけばどんな年も不安はないはずです。
「子」は始まる、でも「庚」は終わり。これは何となく反対のことを言っているようにも感じます。ところが、まさに日本の2020年を表しているようにも思えます。
2020年の日本と言えば、やっぱり東京オリンピック・パラリンピックです。東京オリンピック・パラリンピックの開催はけっこう前に決まっていましたよね。「お・も・て・な・し」が流行語になったのは2013年でした。そらから開催まで何年もかけていろんな準備がされてきた。これが終わるのが2020年です。
これが終わった時に世の中はどうなるのでしょう。まだよくわかりませんが、景気が悪くなるというように用心深い話も聞いたことがあります。東京オリンピック・パラリンピックが終わったら、いろんな喪失感があるような気もします。
しかし、そうは言っても、次のことを始めなければなりません。ただし、何かが見えているわけでもなく、それは種からのスタートです。
このように「終わり」と「始まり」がある2020年は、「庚子」の干支のイメージにピッタリなのです。
問題は、そこで私たちはどう生きるか、です。
もう1つ漢字の意味も、興味深いものがあります。これは安岡正篤先生の「干支の活学」という本が参考になります。2020年は令和2年ですが、この安岡先生は1つ前の「平成」という元号を考えたと言われている方です。
~新装版 干支の活学 (安岡正篤人間学講話)~
その中で「子」は「増える」というような意味があると書かれています。子は動物で言えば、「ねずみ」。ねずみは繁殖力が高くて、どんどん増える。十二支の動物は後付けですが、意味では合っているところもあるようです。つまり、子には「増える」という意味があるようです。
「庚」はもともと「更」だと言われています。この「更」は次のような意味があります。かえる、かわる、あらためる、さらに、そのうえ、深まる、ふける…、「変更」「更改」「更新」…。
こういった漢字の意味も考えると、単純に2020年が「始まる」と「終わる」ではないような気がしてきます。
2020年の干支には「始まり」と「終わり」があって、さらに「増える」、そして「変わる」となるわけです。あるいは「あらためる」です。
計画をスタートしたという意味でも「子」が合っています。出発というよりも継続からの更新を意味するのかもしれません。
改めるといっても簡単ではありません。変更ですから。当然のことながら、反対意見もあると思います。
未来が見えないから不安だし、怖いということでしょう。結局、計画する段階では、結果は誰にもわかりません。
今やっていることが正しいのかどうかわからなくなるときがあります。不安や迷いとの戦いもあります。
そして、もうこれ以上やっても意味がないとか、もうあきらめて別の道を探った方がいいのではないかと思う時があると思います。
未来が見えないからこその不安があり、見えない未来を計画するのはやっぱり難しいものです。
2020年が単純に出発の年であるならば、別の道を新たに進み始めるのが正解なのかもしれません。でも、2020年「庚子」の年は、「スタート」ではなく、「改める」ことなのだと思います。過去を無視できません。改めるということは、これまでの経緯があって、そのうえで、さらに進めるということです。だからこそ、ゼロからのスタートでもないのです。
2020年は長い目で計画する年です。10年後の社会、2030年世の中はどうなっているでしょうか?大切なのはみなさん自身や私達自身がどう生きるかでしょう。森村学園は「未来志向型教育」を推進していきます。2020年、森村学園創立110周年を迎えます。その年が庚子の年、「海の波」のイメージです。
波は絶えず繰り返すわけで、1つの大きな波がやってきて、それが沖へ帰っていく。これが終わりを意味する「庚」です。一方で次の波がやってくる。これが「子」です。
しかし、この次の波は、ただ来るのを待っていたらいいというものでもないような気がします。意識して自分で作り出す波でなければ、いけない気がします。
それが計画することなのではないでしょうか。つまり、2020年は、これまでを振り返りつつ、今後の道を計画する年だと思います。発展のための計画をたてる年です。
新しい波の始まりであり、今年や来年だけではなく、長い目で見て計画する長期計画のときなのです。
計画するには勇気も必要です。その過程には迷いや不安が出てくるでしょう。
最初に話しましたが、やっぱり「庚子」が相生という相性のいい組み合わせであることもあり、運も向いていると思います。
いくら完璧な計画を作っても頓挫することだってあるし、妨害されることもあります。そこには運がなければならない場面もあります。それなら、2020年の相生の年は悪くはないと思います。
そして、計画をするなら「子」の「増える」という要素も入れましょう。
計画にも色々あり、削減とか縮小みたいなネガティブな計画もあるかと思います。そうではなくて、ねずみ年なのですから、増えることを想定したり、好転したりするような楽観的なプラス思考の計画もあり、だと思います。その方が2020年は合っているのではないかと思います。だから、ごく前向きで明るい年なのです。
自分のやってきたこと改めるように、将来を見つめた計画を作る時期、それが2020年の「庚子」の年と言えるのではないでしょうか。
ただ、十二支の「子」はやっぱりまだ種の状態なのです。すぐに結果が出るわけではありません。芽が出て、膨らむわけです。
それでも「10年後に振り返ったら、2020年がその出発の年になっていた」それが望ましい2020年のあり方なのかもしれません。計画って難しいものです。簡単ではありません。夢ではなく、計画なのです。
一年はあっという間です。忙しいと言いながらただ時を過ごすと終わってしまいます。2020年は年末までかかってもいいから、これからの道筋を長期的に計画する年にしようではありませんか。そんな新年の誓いが浮かびました。
今年も良い年でありますように。
そして、2020東京オリンピック・パラリンピックも充分に楽しみましょう!
森村学園中等部・高等部 校長 江川昭夫